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共著物語

秋山真琴×泉由良 並行世界

姉の帰省

 そろそろ起きる頃かな、と部屋に目を向けると、白い夏掛けに包まった姉はまだ穏やかな息を立てて眠っていた。洗濯カゴから拾い上げたTシャツを折り畳んでたん、たん、と叩く。姉の白いTシャツ。染みはうっすらと、殆ど見えなくなっていた。
 昨夜、久し振りの帰宅を歓迎された姉は、母が用意したご馳走を嬉しそうに食べていたとき、「お姉ちゃん、お醤油付いたよ」「え、なに?」「Tシャツにお醤油飛んでる。お刺身の」「あ……」姉は悪びれずにくしゃっと笑った。「てへ」ああいうところ、 むかしから変わらないなあ、と思う。ずっと変わらないのかな。

 ううん、と小さな声を出して、乱れたポニーテイルのあたまが持ち上がった。
「あ……寝ちゃってた。お布団掛けてくれたの?」
「お姉ちゃんカルピス作ってあるよ」
「濃ゆいの?」
「薄いの」
 姉は薄めのカルピスが好きだ。姉は立ち上がって、台所へゆき、グラスを持って戻ってきた。少しずつストローでのみながら、僕が洗濯物を干してゆくのを見ている。僕は父のハンカチを畳んで、手のひらのうえで叩いた。
「きみは洗濯物、丁寧に干すねえ」
「そうかな?」
「うんでも分かるよ。干す前にそうやって皺は伸ばした方がいいんだよね」
「お母さんに習った?」
「うん。きみも?」
「うん」
 そこで姉はふわりとあくびをした。「眠いの?」「ううーん」姉は猫みたいな伸びをする。
 せっかく帰ってきたのになあ。僕はなんとなく、微笑んだ。蝉がしんしんと降りつむ。夏休みだ。