共著物語

秋山真琴×泉由良 並行世界

ひかるひと

「このあたりは、あまりひからないね」娘からの信号を受けて、左目を開けてみれば確かに周囲は暗闇に包まれていた。体表面を守っている防塵液が、眼球に染みこむ前に左目を閉じて、意識をこめかみから生えている二又の触覚に戻す。念のため第三膝を折り畳んで、地面に爪を立てて、主爪と副爪の間に入った土を、顎腔から体内に取り入れる。なるほど雑味のない、スッキリとしていて、どこか爽やかさを感じさせる味わいだ。ここまで無念が蒸発しているとなると、少なくとも死後千年と見て間違いないだろう、ひとであるならば、とうに死に終わり、死後光の残量も尽きているはずだ。「奇妙だな、もっと新しい遺跡だったのに、注意せよ娘」「はい、とうさま」歩幅を狭め、慎重に前進する。だが、警戒は遅かった。突然、足元の地面が崩れ落ちたのだ。どうやら空洞の上に、薄い地層が乗っていたらしい。身軽な娘は咄嗟に跳躍して、壁に取り付いたが、砂礫に八肢を絡め取られた私は、間に合わなかった。落下するにつれ酸素が失われる。自閉のため意識に遮蔽材が注ぎ込まれる。死ぬ前に、娘の姿を見たくて五十年ぶりに両目を開ける。周囲は輝いていた。まさか転輪説が正しかったとは。