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共著物語

秋山真琴×泉由良 並行世界

土のあじわい

 久々に会った娘と食事を摂って店の外に出ると、外は夕暮れが去りゆく頃合いで、そして彼女が発光しているのが分かった。「光るの、母さん譲りだな」「お父さんは光らないんだね」「近頃は発光する人間も減ったからなあ。お前も何処かに身を寄せているのか? そう云えば、住所を聞いていなかったな」
「住所は」娘は柳眉を困ったように寄せて、微笑んだ。「砂の下だから」
「やはり、隠れているのか」
「あまり目立つわけには、いかないから」
「不便かい」
「そんなこともないよ」
 娘は染みも皺もないような、白いシャツを着ている。
「お父さん」
「ん?」
「あんみつ、食べたい。まだ時間良いでしょ」
「ん、食べるかな」
 今年で十六だっただろうか、娘は所在無さげに見える。いや、私が落ち着かないのか。
 燈の点いた甘味処の入り口に腰掛けると、宵闇のなかの娘の発光も目立たなくなった。
「クリームあんみつと……」注文をしながら私を見遣る。「あ、僕は白玉を」
「え、白玉?」娘が店員をとどめた。「私も、あんみつ取り消しで、白玉」
 注文をとった女性は品書きを受け取って店の奥へ消える。
「お父さん」
「ん?」
「万年筆、ありがとう」
 今日はパーカーの万年筆を買ってきたのだった。
「まあ、時々使って、あと手入れをすると良いものだから」
「出来るかな」
「花火大会の頃、また来ないか? 浴衣とか着てさ、あ、いや精霊流しかな」
「もう暫くは……」娘の眉がまた傾く。その眉間がぼんやりと光っていた。「あまり出ちゃ、いけないもん」
 またおいで。それを云うタイミングを計りながら、運ばれてきた白玉を黄な粉に潜らせた。白玉は心なしか仄かに煌めくようで、それは砂の下で発光する霊魂を連想させた。
「お父さん」
「ん?」
「また来世だね」
「ああ、そうだな」