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共著物語

秋山真琴×泉由良 並行世界

洗濯物、丁寧に

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 垂直に九十度、ずっしりとした重みを手首に感じながらジェットスチームトリガーを引くと、蒸気の弾ける音と共に、アイロンの底面から大量のスチームが放たれる。紫煙とは似ても似つかない、充分に熱せられた水蒸気は、室内の湿度をわずかに上げると、すぐに見えなくなってしまう。上々である。七十六すべてのスチーム孔が、詰まることなくその機能を十全に果たしているのが分かる。機能を確認したところで、まずは襟から。寝かせたワイシャツに、アイロンをそっと押し付ける。すぐさま噴射されたスチームが、シャツに刻み込まれた皺をやさしく引き伸ばしながら、スチールメッシュ構造のアイロン台を抜けて床へと落ちてゆく。もちろん抜けるのはスチームだけで、熱は表面に施されたアルミコーティングに反射し、拡散されることがない。襟を終えたら次は袖、そこから流れる仕草で腕を処理する。反対側の袖と腕も済ませたら、大きく広げてから肩から胸を経て、裾までを一気に仕上げていく。左胸側を終えたら、最後は右胸側、ボタン周りはリズミカルに緩急をつけて。一分と要さずに一着を終えて、ハンガーに掛ける。パスタが茹で上がるまでに、一週間分を片付けられるだろう。